2023 年 4 月 6 日
Victor Wong
プライバシー サンドボックス担当プロダクト管理シニア ディレクター
私はここ数か月間、プライバシー サンドボックスのプロダクト マネジメントを統括してきました。プライバシー サンドボックスは、ユーザーのプライバシーを強化するとともに、自由で活気のあるインターネットを確保するために設計された一連のテクノロジーです。
プライバシー重視のインターネットへの移行をどのように進めていくかについて、業界のさまざまな方々と交流できたことは、非常に刺激的でした。この課題に積極的に取り組んでいる組織のエネルギーとイノベーションは目覚ましいものであり、来年 Chrome でサードパーティ Cookie の段階的な廃止期限が迫る中、より多くの組織がこの取り組みに参加することを推奨します。
今後の最善の道筋についてさまざまな視点から意見を聞くことができ、非常に有益でした。オープンで健全な対話は進歩に不可欠です。プライバシー サンドボックスについてフィードバック(批判を含む)をお寄せいただいた皆様に感謝いたします。すべての点で合意できないかもしれませんが、集団で議論することは重要です。
そこで、業界として目指すべき 4 つの基本原則と、それらがプライバシー サンドボックスの取り組みにどのように反映されているかをご紹介します。プライバシーを強化したインターネットの実現を支援したいとお考えの方にぜひお読みいただきたい公開ドキュメントです。
1)プライバシーと情報へのアクセスは普遍的であるべき
オンラインでのプライバシー、特にサイトやアプリで自分のアクティビティがどのように追跡され、デジタル広告でどのように使われるかについて、人々はますます懸念を強めています。一部の主要なプラットフォームでは、今日のインターネットの仕組みを混乱させるような変更を行って、そうしたプライバシーに関する懸念に対処しようと試みてきました。これにより、パブリッシャーがデジタル広告を活用してビジネスを支えることが困難になっています。このような変更は、質の高いオンライン コンテンツへの幅広いアクセスを「無料」から「有料」に変えてしまう恐れがあります。効果的な広告がなくなると、コンテンツは有料の壁の背後に移動するか、完全に消滅し、日常生活でこの情報を頼りにしている何十億もの人々が情報にアクセスできなくなります。
Google は、ニュース、ハウツーガイド、楽しい動画など、無料のコンテンツは、収入、所在地、その他の要因に関係なく、すべての人が利用できるようにすべきだと考えています。同時に、ユーザーはオンライン アクティビティに関する情報が保護されていることを確信できる必要があります。
業界として、サイト間トラッキングに依存せず、パブリッシャーやマーケティング担当者がオンラインで成功するために必要な機能を提供する、よりプライベートな新しいソリューションに移行する必要があります。そして、消費者向けのプラットフォーム(ブラウザやモバイル オペレーティング システム)にも、このエコシステムに対応した新たなツールを構築して、移行をサポートする責任があると考えます。それゆえ、私たちはプライバシー サンドボックスの開発に取り組み、Chrome と Android でこの技術をリリースしています。
それに対応できなかった場合のリスクは甚大です。断固たる行動を取ることができなければ、インターネットで誰でもアクセスできる情報が制限される危険性があります。多くの企業が結集してこの課題に取り組んでいるのは喜ばしいことです。業界全体で一丸となって継続的に取り組むことで、あらゆる人から情報へのアクセスを奪うことなく、プライバシーにより一層配慮したインターネットを構築できると確信しています。
2)現実的で長期的に有効なプライバシー保護には、実現可能な代替手法が前提条件となる
ユーザーのプライバシー保護を強化するには、プライバシー保護の代替手法を構築して、デジタル エコシステムの重要なニーズを支える必要があります。一部のブラウザやオペレーティング システムでは、そうした代替手法を提供せずに、サードパーティ Cookie など、既存のユーザー識別子を制限することでプライバシー保護の強化を図っています。しかし、このアプローチは、コンテンツのクリエイターやマーケティング担当者を困らせるだけでなく、人々のプライバシーを保護するうえでも逆効果です。
プラットフォームがこうした配慮に欠けた方法でプライバシー保護の強化を図った場合、より目につかない形のクロスサイト トラッキングが急増することが調査で指摘されています。ブラウザのフィンガープリントやユーザーの個人情報に基づく識別子(メールアドレスなど)といった技術を使用したユーザーの追跡やプロファイリングは、プライバシーへの配慮、管理性、透明性の低下につながります。このような結果は、ユーザーとインターネット全体にとって不利益となります。
オープンなインターネットを支え続けながら、プライバシー保護の強化を進めることは、困難な作業です。マーケティング担当者やパブリッシャーのニーズに応える、プライバシー保護の新たなソリューションを構築するには技術革新が必要です。追跡の手法を 1 つ制限しただけで、ユーザーのプライバシー保護に悪影響を与える他の手法が生まれることはないと考えるのは誤りです。
3)技術的なプライバシー保護の仕組みを提供するソリューションが求められている
データがどのように使用されているかについての情報と、その使用を管理する機能を提供することは、オンラインでのプライバシーに関する人々の懸念に対処するうえで重要なステップです。しかしながら、それだけではユーザーのクロスサイト トラッキングを制限するという課題を解決するには不十分です。ユーザーが自分のアクティビティのプライバシーを保護するのに、さまざまなサイトやアプリの複雑なデータ利用ポリシーを理解すべきであるとは考えません。代わりに、プライバシーが技術的に確保されるソリューションを基盤とした「デフォルトでプライバシーが保護された」オンライン ユーザー エクスペリエンスを提供することが必要です。
プライバシー サンドボックスの API は、多くの既存のソリューションとは異なり、ユーザーレベルのトラッキング識別子は使用しません。これらの API は、技術的にプライバシーに配慮した手法(データ集約、データ ノイジング、オンデバイスまたは信頼できるクラウド実行環境でのセンシティブ データの処理など)を使用してプライバシーを保護します。そのため、サードパーティ Cookie や他のクロスサイト トラッキング手法(フィンガープリントや個人情報に基づく識別子など)と比べて、プライバシーがより厳重に保護されます。また、耐久性の高い基盤として機能し、その上にエコシステムを構築して、データ保護や業界向けの機能をさらに強化していくことができます。
プライバシー サンドボックスの設計については、相反する 2 つの観点から批判をいただいています。1 つは、プライバシー サンドボックスの API はプライバシーが十分に確保されていないため、データ使用をさらに厳しく制限すべき、という提案です。もう 1 つは、プライバシー サンドボックスではクロスパーティ識別子のトラッキング機能が再現されないという反対意見です。ただ、遺憾ながらどちらの意見にも同意しかねます。なぜなら、ユーザーのプライバシーにより一層配慮しつつ、健全なエコシステムを支えるというバランスのとれたソリューションの必要性への認識が欠けているためです。この両方の要件を満たす具体的で実用的な提案は引き続き歓迎します。そうした提案なくして、プライバシー保護の実際的な取り組みを前に進め、この先も誰もが自由に情報にアクセスできるようにすることはできません。
4)ソリューションは業界と連携して、オープンな環境で構築されなければならない
プライバシーにより配慮したソリューションへとインターネットを移行することは、大掛かりな共同作業であり、エコシステムに関わる組織の参加が不可欠です。新しいテクノロジーの導入や既存のテクノロジーの段階的な廃止など、変更についてはオープンに議論し、検討する必要があります。これにより、すべての関係者が変更を認識し、フィードバックを提供できるようになります。
プライバシー サンドボックスでは、提案と計画を明確に可視化し、エコシステムからのフィードバックを受け付ける複数のチャネルを用意することを優先事項としています。このプロセスの一環として、W3C などの業界フォーラムにも積極的に参加しています。W3C には、別のアプローチでプライバシーの保護を強化し、オープンなインターネットを支えることを選択したプラットフォームおよびブラウザ提供企業が参加しています。なお、これらの企業の中には、同等のプロセスで一般からの意見を求めたりフィードバックを受けたりすることなく、破壊的な変更を行ったケースがいくつかあります。
英国競争・市場庁が実施した作業に加えて、情報コミッショナー事務局も関与する一連の取り組みを締結しました。これにより、Google のプラットフォームの変更において、プライバシーの結果と、競争、パブリッシャー、広告主、ユーザーの選択に及ぼす可能性のある影響が考慮されるようになります。また、世界中のさまざまな国で政府機関とのオープンなコミュニケーション チャネルを設けており、私たちのアプローチを報告しています。
プライバシー サンドボックスについてフィードバックをお寄せいただいた皆様にはあらためて感謝いたします。皆様からのご意見やご提案は、ユーザーや企業にとってより良いプライバシー サンドボックス API を構築するうえで重要な役割を果たしています。たとえば、去年発表した「Topics」は、以前の FLoC の提案に関して寄せられたフィードバックに基づくものです。TURTLEDOVE を拡張して FLEDGE を作成したときも、エコシステムとの生産的な会話に基づいて同じことを行いました。
プライバシー サンドボックスの開発を進める中で、Google のアプローチを支持し、プライバシーを強化しつつオープンなインターネットを支える新しいテクノロジーが業界に必要であるという考えに賛同する多くの組織から意見をいただきました。
「オンラインでの消費者のプライバシー保護を強化することは、デジタル広告業界、さらには長期的に持続可能なオープンウェブの実現にとって基本ともいえる優先事項です。これは簡単な作業ではありません。無作為ではなく関連性に基づいたターゲティングをどのように確保し、効果をどのように測定するか、といった質問はどれも一般的なものです。こうした質問に答えられるかどうかは、私たちが連携して取り組めるかどうか、そして提案されたソリューションのテスト、調査、フィードバックに業界を超えて取り組めるかどうかにかかっています。IAB のメンバーは、何が適切に機能し、何をさらに改善すべきかを明確にするうえで非常に重要な役割を担っています。これに関して Google がプライバシー サンドボックスを通じて広範なエコシステムと連携していることを高く評価しています。」
— Jon Mew
CEO
IAB UK
今、皆様とともに築いている未来については楽観的な見通しを持っています。もちろん、変化には困難が伴います。これまで何十年も依存してきた技術から移行する場合は特にそうです。そしてもちろん、こうした複雑で議論の分かれる重要なテーマにすべての人が賛同するわけではありません。Google は、こうした調整に努めながらも、前進を続けます。テクノロジーの歴史が示すように、進歩は必ずしもコンセンサスを待つものではないからです。
2023 年には、より多くのユーザーにプライバシー サンドボックスを提供し、業界と協力して、これまで以上に大規模にこれらの新しいテクノロジーをテストし、導入していきます。そして 2024 年には、Chrome でサードパーティ Cookie を段階的に廃止できる体制が整う予定です。それまでの間、インターネットのプライバシー保護の強化に向けて、引き続き皆様とともにコラボレーション、対話、討論を積極的に行ってまいります。